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音楽にかまけて その3 〜〜お酒とコーヒーと音楽の店 楽屋 青山将之



休憩室×音楽屋×くつろぐ場所。そんな意味を込めて名付けられた楽屋さんは、音楽を聴きながら気軽に飲めるお店です。
レコード・CDの数は、村上で一番!オーナーが集めたジャズをメインに、ブルースやボサノバなどが揃います。また、軽食には注文を受けてから作るというポップコーンや、お酒の〆に大人気のお茶漬けパスタなど、こだわりのメニューがありますよ。
『明朗会計の気軽な音楽酒場』、楽屋で日常空間を少し離れ、音楽に浸ってみませんか?

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 <カーティス・フラー>

 

娘さんが中学校の吹奏楽部でトロンボーンをやっているという方と、ジャズ・トロンボーンの話を少しした。楽屋のレコード棚にトロンボーン奏者のリーダー作は多くなく、わたしの思いつくトロンボーン奏者は数人しかいないが、お薦め盤はいくらかある。
娘さんに聴いてほしいとふと思ったのが、カーティス・フラーの「ブルース・エット」(1959年録音)。
まず1曲目の「ファイブ・スポット・アフター・ダーク」のメロディーから耳になじみやすい。トロンボーン特有のかすれた音色で、軽快な曲が次々に奏でられる。純粋にジャズ・トロンボーンを楽しめる1枚だと思う。物の本でよく名前が挙げられる、いわゆる「ジャズ名盤」の常連盤だ。
お父さんが娘さんに聴かせるかどうかはわからないが、もし聴いたらどんな感想が返ってくるのか、とても興味がある。

 

 

 

 <アン・バートン>

 

オランダのジャズ・ボーカリスト、アン・バートンが初めてリクエストされた。
アン・バートンは、正直言ってほとんど聴いてこなかったボーカリストである。レコードは2枚あるものの、恥ずかしながらどんな内容か記憶にない。
1977年の日本録音盤、「ヒーズ・ファニー・ザット・ウェイ」をかけた。まったく派手さのない、落ち着いた歌声は、いくら聴いても飽きない感じがする。何だか不思議なボーカリストだ。
B面1曲目の「ラバー・カム・バック・トゥ・ミー」のベースがすごいので、クレジットを見てみると、かつて浅川マキと共演した稲葉国光だった。今まで聴いていなかったことを悔いるとともに、棚に眠っていたこのレコードを引っ張り出してくれたお客さんに感謝。
ただ、アン・バートンはないかと聞かれているのに、ハンバーグですかと聞き返してしまったのは、何ともいただけない。

 

 

 

 <ジミー・ギャリソン>

 

固定のメンバーで活動することがあまり多くないジャズの世界でも、「彼はあの時期のあのメンバーでの演奏がすごかった」ということはよくある。
ジョン・コルトレーンが生涯で共演したミュージシャンは数あれど、1960年代からほぼ固定化したメンバーで、コルトレーン、マッコイ・タイナー、エルビン・ジョーンズ、ジミー・ギャリソンというカルテットが、わたしの最も好きな組み合わせである。みなジャズ界の重鎮であり、それぞれがこのカルテット以外でも名演を残している。
リーダーとしても活躍したマッコイやエルビンとちがい、ベースのジミー・ギャリソンは、サイドマンに徹したミュージシャンだったようだ。ピアノトリオの傑作と名高いウォルター・ビショップ・ジュニアの「スピーク・ロウ」で、ギャリソンのベースの素晴らしさがよくわかる。重厚感と疾走感にあふれた名演。
「ベースを聴くジャズ名盤」というコーナーがあれば、確実に上位ランクインすると思う。

 

 

 

 <ビョーク>

 

サッカーW杯ロシア大会で、アイスランドチームのメンバーほぼ全員の苗字に「ソン」がついているのが気になった。
調べてみると、この「ソン」は「〇〇の息子」という意味で、苗字ではないらしい。アイスランドでは苗字の代わりに、与えられた名前のあとに親の名前がつく。男なら「○○のソン(息子)」、女なら「〇〇のドッティル(娘)」という具合だ。
W杯のメンバーはみな誰かの息子なので、「ソン」がつくというわけだ。
アイスランドといえば、歌姫ビョーク。
彼女のフルネームは「ビョーク・グズムンズドッティル」で、「グズムンドゥルの娘」という父称がついている。彼女の歌を多く聴いたことはないが、ピアノトリオと共演したアルバム「グリン・グロウ」はわたしの気に入り盤の1枚だ。アイスランド語によるビョークの歌と、ピアノ、ベース、ドラムスによる単純明快なジャズ。
ビョークが好きでこれを聴いて、ジャズも好きになったという人がいても、まったく不思議ではない。

 

 

 

 <ビル・エバンス>

 

ジャズと村上春樹が好きな先生が最近ビル・エバンスをよく聴いているというので、「ユー・マスト・ビリーブ・イン・スプリング」をかけたら、お気に召されたようでうれしかった。
1977年に録音されたビル・エバンス後期のこの盤を、わたしは楽屋を始めて間もないころ、幼なじみの先輩に紹介してもらった。彼は楽屋にCDを寄贈してくれ、それを気に入ったわたしはその後レコードでも仕入れた。寂しげかつ涼しげなイラストのジャケットを、12インチサイズでも手にしたかった。
エバンスの弾くピアノは、ジャケット同様に寂しげでありながらも、何だか暖かみもある。春夏秋冬どの季節に聴いてもすっと入り込めるので、ことあるごとに楽屋で流れる1枚となった。
先生に聴いてもらった二日後、偶然にも先輩が何年かぶりに楽屋に寄ってくれた。久しぶりに一緒に聴こうと思い、この盤を回したが、悲しいかな、先輩はすでに酩酊していて、エバンスにはいっさい反応しなかった。

 

 

 

 <アレサ・フランクリン>

 

「ソウルの女王」の異名を持つ米国の歌手、アレサ・フランクリンがなくなった。
楽屋のお客さんにもアレサファンがけっこういて、訃報が伝わってからしばらくは、お客さんとアレサの歌を聴き、アレサ話をしながら、彼女の死を悼んだ。
楽屋の開店祝いにと友人が寄贈してくれた数十枚のCDの中に、アレサのベスト盤「30グレイテスト・ヒッツ」が含まれていて、わたしはそれで初めて彼女の歌を知った。力強い歌声にすぐひかれ、寄贈盤の中で一番のお気に入りとなった。何をかけようか迷ったとき、よくこのCDに頼ったものだった。楽屋でここまで出番の多いベスト盤というのもそうそうない。
1971年のライブが収められた「ライブ・アット・フィルモア・ウェスト」がいい。
1曲目の「リスペクト」から、アレサとバックを務めるキング・カーティス・バンドが快調に飛ばす。スタジオ録音も素晴らしいが、アレサの最大の魅力はやはりライブにあったのだろうと、この盤を聴いてつくづく思う。

 

 

 

 <渚ようこ>

 

2回続けて訃報を取り上げるのは不本意だが、やはり彼女のことは書きたい。
デビューは平成ながら、昭和歌謡にこだわり、こぶしの効いた力強い歌声で、ややアンダーグラウンドな世界で人気を博した歌手、渚ようこ。京都ろくでなしでその存在を知り、楽屋でもことあるごとに彼女のCDをかけてきた。浅川マキ同様、「この歌を歌っているのは誰ですか」とお客さんによく気にかけられるアーチストのひとりだ。そして、答えてもほとんどの人がその名前を知らないアーチストのひとりでもある。
ここ最近聴いていなかった彼女の歌を、訃報の入った日にくり返し聴いた。
あいさとう率いるバンド、ザ・ヘアの伴奏で歌う「ブーガルー・ベイビー」は、いつ聴いてもただただかっこいい。年配の方が彼女の歌をしみじみ聴きながら、洋酒などをちびちびやる姿は、見ていて何だかうれしくなる。
一度生演奏を観てみたかったが、かなわなかった。まだまだこれから活躍が期待されたのに、早すぎる死が悔やまれる。

 

 

 

 <甲田まひる>

 

音楽の店を標榜しておきながら、新譜をあまり仕入れないのはどうかと思うが、毎月まるいわ書店に届けてもらっている雑誌「JAZZ JAPAN」に気になるアーチストがあれば、その盤を仕入れることもある。
甲田まひるというピアニストは、とくに気になった。
Mappyという名前で若者に人気のファッションリーダー的存在で、2018年2月に16歳でデビュー作「PLANKTON」を録音。そしてその風貌は、王冠を頭に載せた、おしゃれな美少女。このような人がどんな音を奏でるのか。すぐに取り寄せて、聴いてみた。
1曲目の「ウン・ポコ・ロコ」からたまげた。まさにバド・パウエル直系の、正統派ビバップ。そのかわいらしい姿から繰り出された音とは思えないほどの迫力がある。モンク作曲のバラード「ルビー、マイ・ディア」も、しっとり感抜群。いわく、「完璧だったり美しい物や演奏にはあまり惹かれなくて、バドや、モンクのような変な音、人をびっくりさせるようなサウンドにはまっちゃった」らしい。
おもしろい人が現れた。

 

 

 

 <クイーン>

 

英国のロックバンドであるクイーンと、そのボーカリスト、フレディ・マーキュリーの生き様を描いた伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」が好評を博している。その影響もあって、このところ楽屋でもクイーンのリクエストがよくある。
わたしは今までクイーンには一切興味がなかったが、ありがたいことに寄贈盤や入手経路不明盤など合わせて5枚の日本盤がレコード棚にある。リクエストに応じてこれらを聴いているうちに、クイーンの良さを感じるようになった。
リクエストに感謝。
とくに「オペラ座の夜」(1975年)がいい。
映画のタイトルにもなった「ボヘミアン・ラプソディ」が収録されている4作目で、初めはとっつきにくかったものの、じわじわとクセになるような、何とも風変わりなアルバムだと思う。
そして先日ようやく映画を観ることができた。2時間15分があっという間に感じるくらい引き込まれた。メンバー4人の名前も覚えた。
これから初めて自分の意思でクイーンのレコードを買おうと思っている。

 

 

 

 <高橋竹山>

 

津軽三味線の第一人者、高橋竹山のドキュメンタリー「津軽のカマリ」を観た。
去年より、楽屋では村上の津軽三味線奏者である大谷菊一郎さんに演奏していただいており、迫力ある津軽三味線の魅力を感じていたところなので、より興味深く観ることができるありがたいタイミングでの上映だった。
レコードジャケットなどの白黒写真のせいか、怖くて近寄りがたいカリスマ的なイメージがあった高橋竹山が実は庶民的で優しい人だったのだと、この映画を観て認識が一変した。
竹山の弾く三味線の音色は聴いて楽しいという種類のものではなく、戦前のブルースのように、力強くもどこか哀しく聞こえてくる。
1910年生まれの竹山が語るところでは、当時の津軽では目の見えない男は三味線弾きに、目の見えない女はイタコになるしか生きる道はなかったという。
三味線が好きで弾いたというより、生きるために三味線を弾かざるを得なかったというつらい生い立ちがあったからこそ、あの鬼気迫る演奏が生まれたのだと思う。

 

 

 

まとめ

音楽の魅力を教えてくれる青山さんのコラム。どんな歌声なのか、どんな力強い音色なのか、今すぐ聴きたくなってしまいます。音楽を愛する人たちの素晴らしさが読んでいるだけで伝わってきます。

 

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