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音楽にかまけて その2 〜〜お酒とコーヒーと音楽の店 楽屋 青山将之 



休憩室×音楽屋×くつろぐ場所。そんな意味を込めて名付けられた楽屋さんは、音楽を聴きながら気軽に飲めるお店です。
レコード・CDの数は、村上で一番!オーナーが集めたジャズをメインに、ブルースやボサノバなどが揃います。また、軽食には注文を受けてから作るというポップコーンや、お酒の〆に大人気のお茶漬けパスタなど、こだわりのメニューがありますよ。
『明朗会計の気軽な音楽酒場』、楽屋で日常空間を少し離れ、音楽に浸ってみませんか?

 

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 <アラマーイルマン・バサラット>


わたしがフィンランド好きになったのは、そのことばの響きによるところが大きい。アキ・カウリスマキ監督の映画で初めて聞いたフィンランド語の語感が気に入って以来、むやみにフィンランドのものに興味がわいてしまい、リオ五輪でのメダルの数まで気になった。
しかし、アラマーイルマン・バサラットはちがった。その道の先輩に薦めてもらった4作目「消えた冒険家」を一聴して、すぐさまフィンランド出身ということはどうでもよくなった。訳せば「暗黒街のハンマー」という名前のそのバンドは、管楽器 2人、チェロ2人に、キーボードとドラムスという奇怪な6人編成で、あえて例えるなら、洗練され秩序立った渋さ知らズの少数精鋭版。
ユーモラスで迫力のある彼らの演奏を気に入るのに、フィンランドというひいき目はいっさい必要なかった。

 <イブ・モンタン>


懸念事項のひとつだったレコード棚の整理がようやく完了。
アイウエオ順に並べていたものと未整理だったものを、すべてまとめてABC順に並べ替えた。これでもう何をリクエストされてもあわてることはない。と思いたい。未整理だったものの中には、恥ずかしながら初めて手に取るものも多かった。
これはという発見が何枚かある中、イブ・モンタンが楽屋にあったのは意外だった。俳優でシャンソン歌手でもあるイブ・モンタンの歌う「枯葉」をリクエストされることがたまにあり、常々早く仕入れたいと思っていた。それが去年から楽屋にあったとは。ダンボールで大量にいただいたレコードの中に入っていた盤だった。
寄贈してくれたレコード蒐集道の師に感謝すると同時に、ほったらかしたことをお詫びして、「枯葉」の元祖版をしみじみ聴いた。

 

 <バド・パウエル>


大町通りの骨董市を眺めていて、「1枚500円」と書かれたレコード箱を発見。なかなかの品ぞろえで、盤の状態もいい。6枚ほど手に取り、ご店主と和やかな会話が少しあり。結果、計2,500円で合意に至り、ありがたい。
ジャズピアニストの重鎮、バド・パウエルの「アメイジング・ボリューム2」をライナー付きの日本盤で得て喜んだのもつかの間、楽屋のレコード棚に同じ盤があり、恥じる。
久しぶりの二重買い。
この手のミスを、わたしは今までに数回おかしている。しかし今回は既存盤が輸入盤だったので、別物として受け入れることにした。
バド・パウエルの作品はブルーノートから出されたアメイジングシリーズが名高いが、晩年に録音されたライブ盤「イン・パリ」(1963年)もいい。ベース、ドラムスも元気がよく、ピアノトリオ屈指の名演だと思う。

 <ポール・デスモンド>


楽屋でもリクエストの多い「テイク・ファイブ」は、おそらく日本で最もよく知られているジャズの定番曲だろう。
米国のピアニスト、デイブ・ブルーベックのリーダー盤『タイム・アウト』(1959年)に収録され、一躍有名となった。作曲者は、デイブ・ブルーベック・カルテットのサックス奏者、ポール・デスモンド。ブルーベックとの相性が抜群というイメージが強いが、彼の魅力は自身のリーダー作でも存分に味わえる。
一九六三年にギターのジム・ホールを迎えて録られた『テイク・テン』がいい。タイトル曲「テイク・テン」は「テイク・ファイブ」の続編とも言われ、暖かみのあるアルト・サックスは、聴いていて何とも穏やかな気分になる。ジム・ホールの存在意義も大きく、サックスとギターによって地味に控えめにくりひろげられるアドリブの応酬は、飽きのこない聴き心地のよさがある。

 <ニーナ・シモン>


ニーナ・シモンのレコードを小脇に抱えてにこやかに笑う浅川マキの写真がある。
写真家 田村仁が彼女を撮った数ある白黒写真の中で、わたしのとくに好きな一枚だ。
抱えているレコードは、『アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー』。通常お目にかかるのとはちがうジャケットで、ずっと探しているがこれがなかなか見つからない。
浅川マキは、ニーナ・シモンの歌った曲を自身の日本語にしていくつかカバーしている。浅川マキも歌った「ジン・ハウス・ブルース」と「ボロと古鉄」が収録された、ニーナ・シモンの『禁断の果実』(1961年)がいい。
浅川マキの歌で知り、わたしはニーナ・シモンの歌が好きになった。
好きな歌い手の源流をたどって行き、新しい音楽を教えてもらうのは楽しい。そしてその新しい音楽は、やはり自分の好みであることが多い。

 <長谷川 きよし>


雪の降る昼下がり、ギターケースをたずさえた白髪の男性が電車を待っていた。
不思議な雰囲気を放っていて、大御所のギタリストかもしれないと気になっていると、彼が盲目であることに気づく。長谷川きよし。ふと、そう思った。
彼のホームページを見てみると、やはりそこにいるべきスケジュールになっていた。その晩の楽屋はひどく静かで、ひとり彼のレコードをくりかえし聴いた。
わたしは長谷川きよしのライブを観たことがない。一九六九年に出されたデビュー曲「別れのサンバ」は、ぜひともライブで聴いてみたいとずっと思っている。ブラジル音楽をひそやかに歌う吉田慶子は、アルバム『コモ・ア・プランタ』の中で「別れのサンバ」をポルトガル語で歌っている。ギターは長谷川きよし。
すべての「別れのサンバ」ファンが聴くべき名演。

 <マッコイ・タイナー>


マッコイ・タイナーの「フライ・ウィズ・ザ・ウィンド」をリクエストされて、聴いたことのないタイトルだったが、マッコイのレコードを全部出してみると、何とそれがあった。そのお客さんはたいそう驚いていたが、わたしも驚いた。
いただき盤の中の一枚で、先日のレコード整理の際には目にとまらなかった。エベレストのような雪山のジャケットは一見それほどインパクトがなく、これは素通りしてしまうだろうなどと思いながら聴いてみると、これがいい。何とも壮大なジャズで、そのお客さんが「これを聴くと元気になる」と言うのがわかる気がした。
音を聴いてジャケットを見ると、これがまたいい。ひどい手の平返しだが、実際に印象が変わるのだから不思議なものだ。ジャケットに見合う迫力が、この盤の演奏にはある。
放置したことを申し訳なく思いながら、何度もこの盤をまわした。

 <遠藤 ミチロウ>


浅川マキが日本のパンクロック、とくにザ・スターリンとあぶらだこが好きだったと聞いたとき、少し意外だったが、なるほどとも思えた。
浅川マキとパンク。かなり合う。
1980年に遠藤ミチロウを中心に結成されたザ・スターリンは、その過激でスキャンダラスなパフォーマンスと知的でシンプルな楽曲で、独自の存在感を放つパンクバンドだった。
1985年、スターリンが解散すると、浅川マキは遠藤ミチロウがパンクをやめることを案じたという。接点はほとんどなかったという二人だが、遠藤ミチロウは「マキさんと共演できなかったことが心残り」と話す。
ギターとともにひとり全国を旅する遠藤ミチロウは、今でもスターリンの曲を弾き語る。ふるさと福島を憂い、ドキュメンタリーも撮る。スタイルは変われど、遠藤ミチロウはいつまでもパンクであり続けるにちがいない。

 <辛島 文雄>


日本ジャズ界を代表するピアニスト、辛島文雄さんが亡くなった。
お酒が好きで豪快で、ジャズの楽しさをわかりやすく伝えてくれるピアニストだった。
辛島さんとは、ライブを通じて濃密な数時間を過ごしたことが三回ある。
2006年、村上でライブをという声がかかり、実行委員会を立ち上げて公演を開催したときが最初だった。村上教育情報センターのステージで、辛島文雄(ピアノ)、井上陽介(ベース)、高橋信之介(ドラムス)から成るトリオが、極上のジャズを聴かせてくれた。
静まり返っている場内に、スタンダード曲「あなたと夜と音楽と」のテーマで三人の音が同時にくり出された瞬間、ステージの袖で見ていたわたしは鳥肌が立った。
演奏後、袖に戻ってきた辛島さんは、「やってよかった?」とわたしの耳元でささやいた。
あのときの人なつっこい笑顔は今でもはっきり覚えている。

 <佐渡山豊>


ラジオで70年代フォークの特集番組があり、沖縄のシンガーソングライター、佐渡山豊の歌が流された。初めて聞く名前だった。曲名も歌詞も沖縄語で、まったく意味がわからない。理解できないながらも、何か嘆きというか怒りのようなものを感じる。
あとで調べてみると、「ドゥチュイムニイ」(独り言)という曲だった。
70年代初め、琉球大学の学生だった佐渡山豊が中心となり、「沖縄(うちなー)フォーク村」という音楽集団を結成する。沖縄の施政権が米国から日本にもどった1972年、彼らの歌を収録したオムニバス盤が出され、その一曲目を飾ったのが佐渡山豊の「ドゥチュイムニイ」だった。
沖縄愛を沖縄のことばで歌い、その時時の施政者に翻弄されてきた沖縄を憂う。
40年以上経った今もなお、沖縄が日本と米国に翻弄されているのは、何とも悲しいことだ。

INFO

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まとめ

ジャズ好きにはたまらない、楽屋 青山さんのコラム。語ってもらって初めて分かるジャズの奥深さ。音楽に生きた人たちの物語に思いを馳せてみてください。

 

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