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音楽にかまけて その13 〜〜お酒とコーヒーと音楽の店 楽屋 青山将之


休憩室×音楽屋×くつろぐ場所。そんな意味を込めて名付けられた楽屋さんは、音楽を聴きながら気軽に飲めるお店です。レコード・CDの数は、村上で一番!オーナーが集めたジャズをメインに、ブルースやボサノバなどが揃います。また、軽食には注文を受けてから作るというポップコーンや、お酒の〆に大人気のお茶漬けパスタなど、こだわりのメニューがありますよ。『明朗会計の気軽な音楽酒場』、楽屋で日常空間を少し離れ、音楽に浸ってみませんか?

 

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 <笠井紀美子>


知らないアーチストをお客さんに紹介してもらうのはとてもありがたい。
ある晩先生に笠井紀美子が聴きたいと言われたが、わたしはその名前すら知らなかった。後日、彼女のCDを見つけたので買ってみると、これが見事にわたしの好みで驚いた。
1971年録音の『イエローカーカスインザブルー』。
笠井紀美子の艶っぽくハスキーな歌声と峰厚介カルテットの前衛的でスリリングな即興演奏に、日本ジャズのすごさを再認識させられた。
その後先生が来店された際、ひとり喜び勇んでこのCDをかけたことは言うまでもない。しかし悲しいかな、このアルバムは先生のお好みではなかった。

 

 

 

 <吉田慶子>


音は大きいほうがいいとずっと思っていた。ジャズのベースなど、ブンブンうなりを上げる極太の音が最も望ましい。
そんなわたしが小さくてもいい音があると知ったのは、吉田慶子さんが初めて楽屋に来演したときだった。
クラシックギターで弾き語られるブラジルの歌々。
初めはその音のあまりの小ささに戸惑ったが、次第にその微音にひき込まれる。気が付けば、彼女の歌声を聴きもらすまいと観客は静まり返り、店内にほどよい緊張感が漂っている。
小さい音もいいではないか。いや、これは小さい方がいい。
ハードバップジャズの対極にあるようなひそやかな弾き語りにボサノバの真骨頂を見た。

 

 

 

 <アートブレイキー>


夏の暑い日に何を聴くか。
夏といえばビーチボーイズやチューブが定番なのだろうが、わたしはよく騒がしいジャズが聴きたくなる。
例えばアートブレイキー。
滝を思わせる怒涛のような彼のドラム奏法はナイアガラロールと呼ばれ、かなり暑苦しい音楽なのだが、そこはまさに熱さを以て暑さを制す。
真夏に食べるキムチ鍋のように、暑い中で熱い音に耳を傾けるのも心地よい。
ジャケットも演奏も熱い『モーニン』もいいが、『バードランドの夜』の中の名曲「チュニジアの夜」こそ真夏の夜にぴったりの熱演だと思う。
暑くて騒がしいジャズフェスティバルへ出かけたくなるのも、やはり夏である。

 

 

 

 <泉谷しげる>


「もっと日本で流行している音楽はないの?」と言われたのは、中国大理の小さな食堂で手伝いをしていて店内で泉谷しげるの音楽をかけていたときだった。
泉谷が日本で流行していないとわかった店主もなかなか鋭いが、しかしながら日本には根強いファンも少なくない。
泉谷しげると言えば、テレビ番組に出演するだけで「乱入」と言われるような荒くれ者の印象が一般的だが、切ないバラードも数多くかいている味わい深いシンガーソングライターである。
彼の7作目「家族」は、70年代フォークの裏名盤とも言える傑作で、あの風変わりな食堂の雰囲気にもよく合っていたとわたしは思っている。

 

 

 

 <浅川マキ>


週末の夜更けなど、たまには店主のわたしも残ったお酒と飲み語らう。
通常営業時にも増してレコードをとっかえひっかえ、音楽談義に人生談義。
話に花が咲くと酒もすすむ。
酒がすすむと時間の経つのも忘れてしまう。しかも止める人間がいないので始末が悪い。
飲み疲れるころには、窓の外も青くなり、けだるい明け方がやってくる。
そんなとき、決まって聴きたくなるのが浅川マキの歌。
真夜中の定番であり、楽屋の「蛍の光」と揶揄される浅川マキだが、実は夜明けに聴くのがことのほかいい。
名曲「夜が明けたら」を聴きながら静かな村上駅をながめていると、本当に一番早い汽車に乗りたくなる。

 

 

 

 <ハンク・モブレイ>


学生時代、京都木屋町にあったジェルという小さなジャズ喫茶で、米国のテナーサックス奏者、ハンク・モブレイを知った。
ジャズに興味が出て間もないころで、そのいかにもジャズらしいサックスの音色をすぐに気に入った記憶がある。
大きな書店の廉価CDコーナーにモブレイの名前を見つけて、試しに買ってみると、やはりわかりやすい元気のいいジャズといった風の演奏で、ジャズ初心者のわたしにぴったりのアルバムだった。
名門ブルーノートから1961年に出された「ワーク・アウト」という、れっきとしたモブレイのリーダー作だったが、なぜそれが安っぽいイラストジャケットをほどこされた500円CDになったのか、その仕組みはいまだにわからない。
何はともあれ、それからわたしはモブレイのファンになり、楽屋でもことあるごとにターンテーブルにのせている。
ちなみに、楽屋でかける「ワーク・アウト」は、もちろんくだんの出自不明廉価盤ではなく、ブルーノートの4080番である。
このジャケットにうつるモブレイが、実に格好良い。

 

 

 

 <チェット・ベイカー>


友人に紹介されて買ってみたチェット・ベイカーの「イン・トーキョー」(1987年)がとてもいい。
米国のジャズ・トランペッターで、甘いボーカルも定評のあるチェット・ベイカーであるが、その暖かい音色と歌声があまり好みではなかった。
この2枚組のCDもそれほど期待はしていなかったが、聴いてみると、トランペットが枯れていて、これまでのイメージとややちがう。演奏も歌も、何だかもの悲しい。
人気作「チェット・ベイカー・シングス」が吹き込まれたのが、1954年と56年。売れっ子となったチェットは、やがて麻薬の常習者となり、すさんだ人生を歩むことになるが、70年代に復帰し、1986年には初来日公演を果たす。
そして翌年の来日公演で、この「イン・トーキョー」が録音された。
このライブの約1年後、謎の死を遂げたチェットの遺体からは、薬物反応が出たという。
おそらく復帰後も薬をやめられず、来日公演も、ぼろぼろの身体で演奏したのではないだろうか。
冷たく緊張感のある音色を聴くと、そう思えてならない。

 

 

 

 <火取ゆき>


火取ゆきというシンガーソングライターを知ったのは、たしか会社員時代、渋谷アピアに南正人や三上寛のライブを聴きに行っていたころだった。
CDを1枚買ってはみたものの、とくにのめり込むこともなく、ただ通り過ぎた。
それから約20年を経た2015年の秋、楽屋に初来演した彼女の歌を聴いて、一夜にして火取ゆきの世界に引き込まれることになる。
クールであたたかい歌声とギター。オリジナルはもちろんのこと、カバー曲までもすべてが火取ゆき独自の世界観で表現される。
彼女の歌うザ・スターリンの「溺愛」は衝撃的だった。長年聴いて来たにもかかわらず、今さらながらこんなに良い曲だったのかと思い知らされた。
彼女の魅力を味わうならやはりライブが一番だと思うが、素敵なアルバムも出されている。
ライブ録音盤「太陽」ではオリジナル曲が、最新作「サーカス」では友川カズキのカバー曲が堪能できる。
これまで三度楽屋で歌い、村上というまちも気に入ってくれたゆきさん。
あの歌声をまた楽屋で聴ける日が待ち遠しい。

 

 

 

 <山口冨士夫>


中島らもの遺作となった未完小説「ロカ」の中に、山口冨士夫がモデルと思われるギタリストが登場する。実際にふたりに面識があったかはわからないが、中島らもは伝説のロックバンドと言われる村八分や、そのギタリストだった山口冨士夫の音楽が好きだったようだ。
村八分はわたしも好きでよく聴くが、山口冨士夫がソロになってからの音楽は聴いたことがなかった。
「ロカ」を読んでから山口冨士夫が気になっていると、折よくライブ録音盤「GROOVY NIGHT IN KYOTO 2002」がリリースされたので、さっそく仕入れて聴いてみた。
ギターの素晴らしさもさることながら、初めて聴く彼の歌声がとてもいい。
少しかすれた土っぽい歌声で、今まであまり聴いたことのないようなボーカル。
村八分で最初に作った曲だという「くたびれて」を、山口冨士夫が弾き語る。
これには何だかじーんと来た。
今さらながらライブを観たいと思っても、すでにこの世の人ではない。2013年、山口冨士夫は64歳で不慮の死を遂げる。今さらながら悲しい。

 

 

INFO

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自分好みの声や耳心地のよい音楽に出会えると、ちょっと幸せな気分になりますよね。音楽で少しでも人生を豊かなものにできたらいいですね。

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